Don't let me go, Prince!



「神無、お前があの人達のために無理をして笑う必要などないのです。もう少し自分の好きなように生きられませんか?」

「そんな事……今更、僕みたいな人間には出来るわけない。誰でもが兄さんみたいに強く生きていける訳じゃないんだよ。」

 弥生さんと神無さんが話しながら先に歩き始めたので、私は後ろから二人の話を聞きながら付いて行く。
 2人の考えはあまり合わないようで、弥生さんが何を言っても神無さんは否定的な意見しか返さない。

「神無は最初から諦めすぎなんです。それでは……」

「そんなお説教なら僕は聞く気は無いよ、僕の生き方なんて変えたって大した意味は無いんだから。ほら、もう着いたよ。僕は中で待ってるから。」

 そう言ってさっさと玄関から中に入ってしまった神無さん。私達は挨拶をして家政婦さんに案内をしてもらう。
 そこまで広くないと聞いていたけれど、普通の家庭で育った私にはやはり広い家だった。

 奥の部屋に通されると、お義父さんと隣に50代くらいの女性。そして神無さんが並んで座っていた。

「二人共、よく来たね。この二人は妻の美津代と次男の神無だ。渚さんは初めて会うだろう?」

「美津代です。よろしく、渚さん。」

 美津代さんは私に一度頭を下げると神無さんに挨拶をするように促す。弥生さんが言っていたようにあまり私たちに興味が無いようにも感じる。

「四ツ谷 神無です。」

 先程まで少し感情的な方だと思っていた神無さんの笑みは作り物で感情は全く感じられず、まるで別人のようだった。
 ただお義父さんや美津代さんに言われるがままに行動しているような……

< 99 / 198 >

この作品をシェア

pagetop