フォンダンショコラな恋人
「倉橋先生……頼りにしています。よろしくお願いいたします」
廊下で、翠咲は倉橋に頭を下げた。

「まかせなさい」
それは翠咲に安心して欲しくて伝えた言葉だ。

翠咲の表情が緩んだので、伝わったような気がして倉橋は少し安心した。

けれど、それが自分の表情に出ているなんて思いもしなくて。
「ね、今、笑いました?」
翠咲はとても先ほどまで目にいっぱい涙を浮かべていたようには思えない可愛らしい顔で、倉橋を上目遣いで覗き込んでくる。

「笑ってない」
くそ!仕事だこれは。

「えー? 笑ったように見えたのに」
「笑ってなんかない」
「笑ってたのにー」

くすくす笑う翠咲を守れるのだからよかったのだし、彼女にも安心させたい、任せてほしいという気持ちが伝わったのだから、それでよかったのだと倉橋は思った。

けれど、そんな可愛い顔でからかってくるなんて……困るんだが。

「馬鹿なことを言っていないで、資料をください」
ここからは自分の仕事なのだから。


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