フォンダンショコラな恋人
数日後、倉橋は法廷に立つ。
いつも裁判で法廷に立つ時は独特の緊張感がある。

指定された法廷に入り、被告席に荷物を置いて準備を始めた。
訴えを起こされると弁護士は即座に『答弁書』というものを作成して、裁判所に送る。
裁判官は原告から出される訴状と被告から出される答弁書を確認した状態で、裁判を開始するのだ。

倉橋は早めに入廷したけれど、原告側は倉橋より少し遅れて入ってきた。
原告は思った通り、品のない男で、こんな場所なのにも関わらずパーカーと細身のGパンでのご登場だった。

その瞬間、裁判官の眉がそっと寄ったのを倉橋は見過ごさない。
まあ、TPOも分からないような奴だ。

被告側の弁護人である倉橋は読み上げられた訴状に相違はないか、と裁判官に尋ねられ、
「大筋では誤りないですが、肝心なところに見解の相違が発生しているかと思います」
冷笑を交えての発言だ。

「では発言をどうぞ」
そこで倉橋は淡々と保険会社側は確認さえ出来れば支払う意思があるのに、原告側がその確認に応じないのだと伝える。

相手方の弁護士は緩く笑っているだけで、真剣に訴えを通す気はないように見えた。
勝てないと分かっている表情だ。
むしろ勝つ気などない。
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