フォンダンショコラな恋人
「つまり確認中、ということですか?」
「そうなりますね。裁判官もご存知の通り、支払う側としても漫然とした通院はそもそも約款で認められていないのです。治療が長期に渡るのであれば、厳然たる証拠がないと。今はそれを提出頂くのをお待ちしている状況です」

「では、まだ決定していないのですね」
「はい。していませんね」
ふん……と考える様子の裁判官だ。

「では被告側としては意思はあるけれど、エビデンスが出てくるのを待っている?」
「仰る通りです」

男は思った雰囲気と違ったのか、顔色が悪くなってきていた。
ちなみに男が連れている真田弁護士は倉橋の同期で、本気になれば怖い男だ。

何度も模擬裁判で戦っているから分かる。
相手方弁護士は本気ではない。

よく保険金未払い、という言葉を耳にするけれど、本当の未払いと今回のケースは全く違うのだ。
未払いは払うに足る状況にあるのに、払われないことだ。今回は支払うに足る状況にあるとは言い切れない。

「原告側、なにか反論はありますか?」
「そうですね……。一刻も早くお支払いをお願いしたい、としか」

真田は理知的で整った顔を少しだけ笑ませて、淡々とそんなことを言う。
確かにその通りだし、主張はそこだろう。
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