フォンダンショコラな恋人
「倉橋先生、うちの営業社員です。隼人、こちらの方はうちの顧問弁護士さん。案件でお世話になったの」
「顧問弁護士の先生か……。いつも、お世話になっています」

「君をお世話した覚えはないけど、宝条さん、少しいいかな?」
さらりとそう言って隼人を黙らせると、倉橋は握っていた翠咲の手を引いた。
「はい?」
──何か用事だろうか?
翠咲は手を引かれて、ビルの中に入る。

人気のない階段を降りると、急に翠咲はドキドキしてきた。

そう言えば、なんで手を握られているんだろう……?

階段を降りて、踊り場に着くと倉橋は足を止めた。
翠咲に向き直る。

その端正な顔が真っ直ぐに自分を見ていて、翠咲はどきん、とした。

「浴衣……やっぱり、似合う」
「ありがとうございます……」
倉橋が翠咲の後ろの壁に腕をついた。

その腕の中に囲いこまれる形になり、翠咲はだんだん鼓動が大きくなってくるのを感じた。

「あいつ……、なんで名前呼びなんですか?」
「あいつ? 隼人のことですか?」
倉橋が微妙に表情を歪める。
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