フォンダンショコラな恋人
「重いだろ? それに浴衣じゃ持つのも大変だしな」
「最初から、言ってくださいよぅ……」

恥ずかしい思いをした翠咲は、つい恨みがましい顔になってしまう。
「いや、まさかお手するとは……」

思い出したのか、まだ、倉橋はくすくす笑っている。
「僕は本当に言葉が足りなくて。けど、お手……」

よく分かった。笑い上戸だこの人。
けれど、おかげで緊張せずにすんだ。

翠咲の荷物を受け取って、そのまま手を繋いだ倉橋はタクシーに向かって手を上げる。

それを見て翠咲はどきん、とした。
あ、やっぱり行くんだ。

そう言えば先程は、禁固刑とか胡乱(うろん)なことを言っていたような気がするが。

「新陽町まで」
「はい」
運転手は車を出す。

行先を告げて、初めて翠咲は倉橋の住んでいる所を知った。
「あ、新陽町なんですか?」
「そう会社が二本橋だからね。電車で4駅は近いだろう」
「そうなんですね。二本橋だったんだ。うちの会社からも近かったんですね」
< 123 / 231 >

この作品をシェア

pagetop