フォンダンショコラな恋人
その端正な顔でまっすぐ見つめられることに、翠咲はまだ慣れていない。

「……っ、な、何ですか?」
「確かに可愛いな。浴衣」
「それって浴衣を褒めてます?」
「自分を褒めて欲しい?」

ぐ……っ。そんなことは、言えない。

翠咲が言葉を詰まらせると、顔を伏せてくつくつと倉橋が笑っていた。肩が小刻みに揺れている。

からかわれた!!

「もう! 陽平さん! 意地悪してる!」
「悪い……君があまりに緊張してて、可愛くてついいじめたくなってしまった」

ふふっと笑う倉橋は心から楽しそうだ。
翠咲をからかうのが趣味なのだろうか。

「全く、本当に私のことなんて好きなんですか?」
「ああ。好きだな」
翠咲の言葉には、倉橋は淡々と返す。
これではまるでいつもと一緒ではないか。

「嫌いだったくせに?」
「いいか? 僕は君が嫌いだったことは一度もない。まあ、君は僕が嫌いだったようだけどな。僕の方が、散々君には嫌いだと言われたような気がするが?」
割と真顔でそう返される。
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