フォンダンショコラな恋人
それには返す言葉もない。
確かに最初は嫌いだった。

いつも冷たくて、淡々としていて、翠咲のことも理解してくれていない、と思っていたのだ。

けれど、本当はそれは違って。
本当は熱くて甘くて、翠咲のことを理解していてくれていると分かったから。

「分かりにくいんです」
「それはよく言われる。けど、分かりにくいだけで離れてしまうような関係性なら、それは本当じゃないんだろうと思わないか?」

それで離れてしまうなら、それまで。
それはなんだか冷たいようにも翠咲は感じた。けれど、いかにも倉橋らしくはある。

翠咲がそんなことをもっと以前に聞いたら、やっぱりこの人は冷たい人なんだ、と決めつけていただろう。

今は違うと知っている。

「それ、冷めているって言われないですか?」
「どうかな。じゃあ、翠咲はどう思う? 分かりにくくて冷めている僕とは無理?」

翠咲は、手の中のイチゴミルク酎ハイをこくんと飲んだ。

甘くて酸っぱくて、アルコールの苦味がある。

「先生はフォンダンショコラみたいな人です」
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