フォンダンショコラな恋人
「課長も言っていたけど、後手には回れないから」
「さっきの部署では泊まり込みもあると聞いたけれど」
確かに昔はそんなこともあったようだが、今はそういうことはない。

それでも倉橋の薄い表情の中に翠咲を心配する色が見えて、翠咲は大丈夫と微笑んだ。

「今はないわよ。ただ終電とかにはなったりするわね。私はそこまでじゃないと思うけど、なんとも言えないかな。でも残業にはなるかもね」
そう言って翠咲は笑った。

「うちで寝泊まりすれば?」
唐突な倉橋からの言葉だ。

思わず翠咲は聞き返してしまった。
「え?」
「翠咲の家からよりはうちの方が会社に近いだろう」

確かに翠咲が電車に乗っている時間は乗り換え合わせて30分で、それでも近い方なのだ。
倉橋のところからなら電車で15分だ。

「確かに近い……けど……」
倉橋からは今までそんな気配はなくて、唐突過ぎて戸惑う。

かばんの中から、鍵を取り出した倉橋は鍵を翠咲に押し付けた。
「僕の部屋の鍵だから、自由に使っていい」

「え? あのっ……」
「合理的だ」
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