フォンダンショコラな恋人
確かにそうではあるのだけれど。
全てを合理性で判断するのってどうなの⁉︎

「翠咲なら構わない」
相変わらず、淡々としているくせして、翠咲には甘いのだ。

大事な部屋の鍵をポン、と渡してしまうくらいに。

「今日は僕は仕事で遅くなるし、荷物を持ってきて明日から、うちから行けばいい」

倉橋先生!と渡真利に呼ばれて、倉橋は翠咲をエレベーターの方に押しやる。

「あの……っえ……」
「反論は聞かない」

ズルい!
けど……その顔に逆らえる訳もなく、翠咲はエレベーター前でお見送りのお辞儀するフリをして、上げられない顔の赤さを誤魔化した。

ズルいよ……あの顔。
『反論は聞かない』と口角をキュッと上げたりするから。

倉橋は翠咲の方を向いていたから、その表情はおそらく誰も見ていないのだろうけれど、それにしても翠咲としては、あまり他の人には見せたくない。

ほんと……ズルい。
硬い鍵の感触が妙に嬉しい。
それは倉橋が翠咲を心配して甘やかしてくれている印でもあるから。翠咲はその鍵を胸の前でぎゅっと握りしめた。
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