フォンダンショコラな恋人
少し迷ったけれど、仕事を終えた翠咲は一旦自宅に戻り、簡単に2、3日泊まれる準備をして倉橋のマンションに向かった。

確かに合理的ではある。
翠咲の自宅からだと電車が使えなくなったりした場合、タクシーを使うには思い切りがいる距離だが、倉橋のところからならば万が一のことがあっても気兼ねなくタクシーでも出社できる。

もちろんそんな事態にはなってほしくはないが、常に最悪な場合どうすれば良いのかを考えることが翠咲の癖になっている。

いちばん最悪を考えておくことが最善なのだ。
そうすれば、ほとんどの場合に対応できると翠咲は分かっているから。

そういえば、彼氏との付き合いもそんな風に考えてしまうところがあった気がする。

だからいつも別れ話を切り出されても、翠咲は正直それほど動揺はしないように見えただろう。

内心はどうして⁉︎なんで⁉︎と思っても、そういうこともありうるのかも知れないと思うと否定することはできなくて『わかった』と割とサッパリ言っていた。

自分の気持ちは自分でなんとかなるけれど、人の気持ちを変えることは困難だと翠咲は思っているから。

元カレの
『翠咲は引き止めないんだな』
と言う言葉には、少なからず傷ついていたとしても。
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