フォンダンショコラな恋人
泣いてすがれば気持ちが変わるのであれば、そうするけれど、きっとそんなことをしても、気持ちは変わらないと思うと翠咲にはできないのだ。

元カレは一体どうしてほしかったんだろう……が翠咲の中ではよく分からない。
泣いて、すがってほしかったんだろうか……?
そうしたら、何か変わったの?は翠咲の心の中でずっと問い続けていることだ。

その点いろんなことを合理的に考えて行動する倉橋とは、同じ時間を過ごしても、愛想がなくても気にならない。

倉橋の言葉には基本的に嘘がない。
正しいことをはっきりと伝えることが、彼の中の誠意で正義なのだということがよく分かる。

翠咲は倉橋の部屋の寝室の一角に荷物を置かせてもらい、シャワーを浴びて部屋着に着替えた。

主不在の部屋というのは、なんとなく落ち着かなくて翠咲は荷物の中からノートパソコンを取り出し、先日倉橋がしていたようにラグに座って、ダイニングテーブルの上にパソコンを広げる。

災害時の対応マニュアルなどを改めて確認していた時だ。

カチャカチャ、と玄関で鍵の音がした。
翠咲は玄関に向かう。

「陽平さん、お帰りなさい。ありがとうございます。遠慮なく……」
「あなた、誰?」

──はえ⁉︎
玄関にいたのは、お人形のような美人さんだったのだ。
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