フォンダンショコラな恋人
「いや?何も。ただあいつ猪突猛進だったから、力則に合わせただけ。体でぶつかるより向こうの力を利用して背中で投げた方が間違いないと思ったから」

「すご……。よくあんな一瞬でそんな判断したわね」
「ん……でも、翠咲を守りたかったし」

そう言った陽平が翠咲に手を伸ばしたので、翠咲はその手を握った。
やけに冷たい。

相変わらず表情に変化はないけれど、緊張が解けて血の気が引いてきているのかも知れなかった。

きゅっと翠咲は安心させるようにその手を強く握る。

それに気づいた陽平は翠咲に向かって微笑んだ。ゆっくり繋いだ手に力を入れる。
その力強さが翠咲にも嬉しかった。

「あいつ……なんも持ってなくて良かった。それに偶然でも目の前で助けられて、本当に良かった……」

心から安心したような声に翠咲はとても嬉しくなる。
翠咲は陽平の腕にぎゅうっと抱きついた。

「陽平さん、ありがと」
「うん」
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