フォンダンショコラな恋人
それは倉橋にとっては、いつもきりりとしていて隙のないような人の妙に隙のある慌てたようなその姿は、不思議とアンバランスな気がして可愛らしさを感じたのだ。

倉橋は宝条の言葉を待つ。
「ご……ごめんなさい」
やっと発した言葉はそれだった。

すみませんとか、ごめんなさいとか、喧嘩腰でなければお詫びの言葉しか聞けないのだろうか。
少しがっかりする。

「何に対して? 事実ではないことですか? 事実確認をしないで中傷しようとしたこと?」
もっと他のことを、宝条の口から聞けないものなのだろうか。

そう思った倉橋の語調は知らずきつくなっていたかもしれない。

「中傷とか……そういうことでは……っ」
確かに中傷、という表現は少し大袈裟だ。正しくない。

「そうですね。その言い方も適正ではなかった。別に僕の名誉を傷つけられたとかではないので。単なる悪口ですかね」

宝条が下唇を噛み締めたのを見て、しまった、言い過ぎたかもしれないと思ったその瞬間だ。

「あなたのそういう所が嫌いなのよ」
「え……」
自分が鳩なら、豆鉄砲を食らうとこんな顔になるのではないか。

口にした宝条もしまったという顔をしている。
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