フォンダンショコラな恋人
自分は感じが良いとは思わないが、それでも嫌いだと正面切って言われたことはない。
咄嗟に倉橋は宝条の腕を掴んで壁に押し付けた。

「僕はね……あなたのことを嫌いではないですよ」

なにを考えているのか、それとも考えていないのか静かな眼で見返してくる宝条が無防備で、こんな無防備な宝条の姿は見たことがなかった。

「全く、そういうところ……ね。詳細に聞きたいですね、宝条さん」
一瞬で立ち直った倉橋に比べて、酔っているのか宝条はキョトンとしたままだ。

倉橋は宝条の手を掴んで「荷物はどこです?」と尋ねる。

「あの……え? 先生……?」
先ほど宝条が座っていた席の横には後輩らしき女性がいて、彼女もきょとんとしてこちらを見ていた。

「こんにちは。顧問弁護士の倉橋です」
「あ、お世話になります! 宝条さんの後輩で今はコールセンター勤務しています。高槻結衣です」

ハキハキとした話し方は、なるほどコールセンター向きなのかもしれないと感じた。
長い髪と大きなくりんとした瞳が印象的な人だ。

「打ち合わせしたいんですけど、帰りは送りますから宝条さんをお借りしてもいいですか?」
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