フォンダンショコラな恋人
「行きつけのラウンジがあるんですよ」
「ラウンジ……はぁ……」

「連れ込まれたかったんですか?」
「っ……‼︎ そんな訳ないですっ!」
そんな事はないと分かっているから、言える事だ。

宝条もあわあわと慌てている。
全く、仕事の時と全然違うじゃないか。

いつもなら、きりりとしていて隙がなくて納得いくまで食い下がる。
こんな、怯えたり、慌てたり……。

つい、横に座っている宝条を見てしまう。
「……なんです?」
やはり、キリリっと返される。

けれどお酒が入っているせいか、顔はふわりと上気して頬はピンクだし、目も潤んで外のライトが反射するせいか目の中がきらきらしている。

もともと顔立ちは綺麗な人だ。

「いや、冗談です」
「倉橋先生も冗談なんて仰るんですね」

真顔で言うから、お前のは分かりにくいんだよ!とはよく言われるけれど。
「冗談くらいは言いますよ」
そう返した。

はふ、とため息をついて、ようやく宝条はタクシーの座席の背もたれに身体を預けた。
先程まで張り詰めていた空気が、ふと和らぐ。
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