フォンダンショコラな恋人
ん?
「本当に心から申し訳ないって思っています。あの、私帰ります」
ホテルの前に止まっていたタクシーにささっと宝条は乗り込んで、去っていった。

その場に残された倉橋は、唖然とそれを見送る。
ここまで来て、帰るか!?


「山手ホテルへ」
いつものように淡々と倉橋が言うのに、翠咲はぎくんとする。

さっき『嫌いだ』と言ってしまってから、怒るかと思った倉橋は、怒るよりむしろ驚いていたようで、一瞬目を見開いて固まっていた。

ただその後の持ち直しがさすがで、気づいたら荷物と一緒にタクシーに乗せられていたのだ。

いつの間に、こんなことになったのだろう。
考えても酔っているせいか、よく分からない。

倉橋のその整った横顔は、いつも通りひんやりとしていて淡々としていて横顔からだけでは、その真意を汲み取れない。
きっと、怒っているのよね?

「行きつけのラウンジがあるんですよ」
唐突にそう言われて、
「ラウンジ……はぁ……」
としか翠咲は返せなかった。

(どうしてあえてラウンジなんて? そうか。行先がホテルだから)
「連れ込まれたかったんですか?」
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