フォンダンショコラな恋人
それはそうか、と翠咲も思う。
最初の印象が後を引きすぎていたのだ。

こうして見たら、むっとしたり、少しだけだけど柔らかい表情をしたり、冗談を言ったり人間っぽい顔をする。
いや、人間なんだけどね。

いつも、あまりにも冷静で淡々としているから、感情なんてないのかと思った。

先入観を持ってはいけない、といちばんよく分かっているはずなのに、先入観どころか完全な色眼鏡で見ていたことを翠咲は申し訳なく思った。

はふっ……とため息が出る。
そんなに力を入れることはないのかもしれない。

こんな人だから、嫌っていないも恐らく信用できる言葉のはずだから。

そう思うと身体からも余分な力が抜け、そして初めてそこで力が入り過ぎていた自分に翠咲は気づく。

「本当に分かりにくい方なんですね」
全くもう、分かりづらい……。

でも、冗談……?あれが?
思い返すとおかしくて、笑えてしまう。

「本当。結衣ちゃんの言うことは正しいわ。ちゃんと、話さなきゃ、ですね」
「分かりにくいのは事実ですよ。みんながそう言いますから。僕としては、事を難解にしているつもりはないんですが」
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