フォンダンショコラな恋人
「渡真利先生」
倉橋のひんやりとした声がその場に響く。
「仕事、しましょう」
「あ……はい」

この人はいつでも誰が相手でもそうなんだな、と翠咲は思った。

改めて、渡真利が書類を開いて説明する。
「まあ、訴状の内容は『俺が金欲しいって言ってんのに、保険会社が払ってくれないんですけどー』というような内容だな」

──そんな……。
電話でも相手の暴言に耐えながら何度も説明をして、文書も送っているのに。

そう思うと何とも言えない気持ちになる翠咲だ。

「倉橋、宝条さんの対応に何か問題はあったか?」
翠咲の様子を見て、あえて大きな声で渡真利がそう発言をした。

「いえ。僕の方でも確認していますけど、全く問題はありませんでしたね。確認中ということで、何度も先方に説明して連絡も取られていますし、重ねて文書でもお願いしている。配達記録で送付されていることも確認できていますから、問題はないかと思います。」

「だから、宝条さん、そんな顔しなくていいんだ。」
優しく渡真利にそう言われて、気づいたら、翠咲の瞳から涙がこぼれ落ちていた。
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