フォンダンショコラな恋人
鏡を見て、目が真っ赤になっているのを確認した。鼻水までこぼれそうなので、しっかり鼻もかんだ。

そうして、洗面所の水で少し目元を冷やす。
みんなを困らせるつもりはなかったのだ。

ただ、間違っていなかったのだと知って、安心しただけなのだ。

役席なんだから、みんなの前ではこんな顔は見せられない。
目元を冷やしたら少しはマシになった気がしたので、ポーチから化粧品を出して崩れてしまった化粧を直す。

「ふう……」
大きく息を吐いた。

もう、大丈夫。
『一人じゃないんだから、大丈夫よ!』といつも部下には言っているくせに、自分はまるで一人かのような錯覚を起こしていたのかも知れない。

いつでも、周りには頼れる人がいる。
そんなこと、何度も経験してきたはずなのに。
でも、もう大丈夫だ。

この経験はきっと、沢村や渡真利、倉橋からたくさんのことを得るのに間違いはないだろうから。

案件に関わらせてくれると言った課長をがっかりさせたくはないし、まだ、この件がどうなるのかしっかり見届けなくてはいけない。
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