フォンダンショコラな恋人
そんな時だ。
1件の火災の案件が報告に上がったのだ。

当初の申し出が『全損』つまり、保険金の全額を支払う可能性のある事故だった。

火災保険の全額、というと支払いは何千万にもなる可能性がある。
その際も掛けられていた保険金は、満額の支払いで5000万円だった。

掛けられていたのは倉庫と、そこに収納されている在庫。
保険契約として内容自体は割と普通である。

支払い額も大きかったので、当然、調査会社に確認を依頼はしていた。

上司が気にしたのは、契約から短い期間での事故。
契約からわずか3ヶ月の間の事故である。

翠咲としては、そんなこともあるのかなあ……不幸なことだな、くらいにしか思っていなかったそれ。

その上司の知る火災鑑定専門の調査会社に確認を依頼したところ、なんと契約者自身の放火だったことが発覚したのだ。

自分の上申が通っていたら、危うく会社に損害を与えてしまうところだった。その上に、放火という犯罪を見逃すところでもあった。

本当に温和で、仏とも呼ばれていた上司だったが、お陰で翠咲は救われたどころか、仏と翠咲は、社長表彰の対象になったのである。
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