フォンダンショコラな恋人
なんだかいい匂いだし、ふんわり倉橋の腕に包まれているのは、なんだか悪い気分ではなくて。
なんて言うか、こうしてたい……とか。

「逃げないな」
「え……」

逃げなきゃいけなかったですか?
そう聞こうとして、翠咲は倉橋と顔がとても近いのに気づく。

ふ……っと倉橋が笑った気配がして、軽く息が唇にかかる。
唇に息がかかるくらい近くにいるんだ……そう翠咲が思って、そうして、そのまま唇は重なっていた。

強引でもなく、ふわりと重なった唇は翠咲が呆然としている間、何度も何度も重なる。

「逃げない、な」
もう一度言って倉橋がその整った顔に笑みを浮かべるから、いつもは氷のように冷たい無表情なのに、ふわりと笑って翠咲の頬を撫でて笑うから……、
逃げるなんてできるわけがない!

ガタっと背中で脚立が動いた。
脚立と倉橋の間に、翠咲はしっかりと挟まれてしまう。

「後悔したんだよ」
そうそう!
後悔の話でしたね!
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