フォンダンショコラな恋人
ただし、倉橋が驚いたようには、渡真利には見えないだろうが。
少しくらい、眉が動いたかな……くらいだろう。

一方の倉橋は少しだけ、動揺していた。
なぜなら、その企業名は宝条の会社だったから。

先日、割烹料理店から宝条を連れ出して、本当はゆっくり話をしたかったのに。
そのために行きつけのラウンジに連れて行こうと思っていたのに。
彼女はさっさとタクシーで帰ってしまった。

あんな風に、ホテルの目の前で女性に逃げられたことはない。

逃げたわけではないかもしれないが。
その宝条の会社。

「どこの部署ですか?」
「珍しく、傷害査定だな」

現在、傷害査定で法律相談を受けている案件は宝条の件だけだ。
本来ならそれくらい揉め事の少ない部署なのだ。

「どういうことです?」
「支払いがされないことで、腹を立てているんかな。未払いだと訴えを起こしているらしいな。そうなのか?」

「そんなバカな。時間がかかっているだけですよ。調査中です。そもそも疑義案件ですし」
「疑義案件……」
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