フォンダンショコラな恋人
好意を持っていそうな渡真利に、やたらに『僕』が担当なのだと沢村は主張していた。

「俺もセクハラで訴えられるようなことはしませんよ?」
渡真利はいつでも、売られた喧嘩は買う主義だ。
「そんなこと言ってませんよ?」

ふざけているのか、真面目なのか、この人たちは……。

この渡真利に笑顔を返す沢村は、さすがだと褒めたいが、仕事である。
「渡真利先生。仕事、しましょう」
ここは自分がそれを言わねばならない立場だろう。

静かに倉橋はそう口を開いた。
「あ……はい」

その後、打ち合わせに入り、倉橋は渡真利に宝条の対応に何か問題はあったかと聞かれた。
改めて倉橋は思い返す。

──それはなかった。

「いえ、僕の方でも確認していますけど、全く問題はありませんでしたね。確認中ということで、何度も先方に説明して連絡も取られていますし、重ねて文書でもお願いしている」

支払いを要求するのであれば、それに足るエビデンス(証拠)を出して欲しいと、何度も宝条は先方に頼んでいるのだ。
それをのらりくらりと交わしているのは、向こうだ。
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