フォンダンショコラな恋人
「配達記録で送付されていることも確認できていますから、問題はないと思います」

そのこちらからのお願いの文書を受け取っていないとは言わせない。

ボールは何度もこちらから投げている。
投げ返してこないのは向こうだ。

その時、俯いていた宝条の瞳からぽろぽろっと涙がこぼれ落ち、倉橋は驚いた。
泣くなんて思わなかったから。

その涙にわざとらしさはなく、気づいたらポロッとこぼれていたもののようだった。

正直に言えば、倉橋は何度か女性に目の前で泣かれたことがある。
恋愛とかいう感情が先走る様なものに自分はイマイチ真剣になれないのだが、女性はそうでもないらしい。

倉橋にとって、女性の涙というものは(なじ)りや(そし)りとセットになっているもので、いつも、そんなに感情的にならなくても冷静に話せないのか……と倉橋は、つい冷たい目で見てしまっていたことも否めない。

けれど、宝条のその涙はそういうものではなく、意図していないのにこぼれてしまったという雰囲気だったそれは……そんな風に泣かないでと思わず口にしたくなるような風情のものだったのだ。

空気を察して部屋を出る宝条に、その場に残った3人は何とも言えない雰囲気になる。
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