フォンダンショコラな恋人
「んんっ……」
と咳払いした渡真利に倉橋が
「僕が行きます」
席を立った。

廊下に出るとお手洗いに向かう宝条の姿が見えたので、倉橋は後を追った。
人通りの少ない廊下で、壁にもたれて腕を組む。

正直、なぜ後を追ってしまったのか分からなかった。
ただ、追わなくては、と思ったことは間違いはない。

女性が泣く姿なんて嫌いなくせに、宝条にはあんな風に泣いてほしくない。

泣かせたくない。と言うか、自分以外に涙なんか見せてほしくない。
泣くなら自分の胸の中で泣けばいいのに、とすら思う。

洗面所から「よし!」と声が聞こえて、思わず倉橋は笑ってしまった。

それでこそ宝条だ、と思うから。
倉橋にすら折れない、負けなかった。

そんなところが好ましいと思うのだ。

お手洗いから出てきた宝条は倉橋の姿を見て、びくっとしていた。

「……っ、く、倉橋先生……」
「大丈夫か?」
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