主人と好きな人。
健次はリビングでテレビを見ながら寝てしまったようだ。
あたしはベッドに潜り込んで夢中でラインを返した。
『旦那さん怖い人?』
『全然。でもなんかやっぱりいい気はしないんじゃないかな。』
『でも俺たちラインしてるだけだし!』
『そうなんだけどね!バレたらなんか言われるかも!』
『バレないようにスマホロックかけててね♡』
『スマホ見るような人じゃないよ(笑)』
こんなに続けて返信することが今まであっただろうか。
健次からのラインなんか必要事項しか書いてない。淡々としたやり取り。
あたしはぼんやりと光り続けるスマホをタップし続け、いつの間にか眠りに落ちていた。
「ゆか・・・ゆか起きろって・・・」
陽の光がカーテンから刺す。
薄らと目を開けてみると、健次があたしを覗き込んでいた。
「あ・・・おはよ・・・」
「おはようじゃない。お前今何時だと思ってんだよ。」
「え・・・・・・・。」
スマホの画面を慌てて確認すると『AM9:00』と表示されていた。
「え?!?!やばい!!!こんな時間!!!」
「お前のせいで俺も遅刻だよ。」
慌ててベットを降り、準暇しようとしているあたしに健次が話しかけてくる。
「朝飯もねーし。弁当もねーとか・・・ありえねーだろ。」
「・・・・・・ごめん・・・。」
鏡を見ながらネクタイを付けて悪態をつき続ける。
「だいたい何で寝坊なんかするんだよ。俺の方が早起きするとかないわー。」
「・・・・・・・・・・。」
あたしはいつから健次のお世話役になったんだろう。
あたし達は夫婦だったはずだ。
誓いの言葉を交わし、お互い助け合い、愛し合って結婚したんじゃなかったのかな。
パジャマを脱ぎながらブツブツ言っている健次を横目で見た。
「だいたいお前はさ」
「なんで・・・・・。」
「は?」
「なんであたしが健次の世話しなきゃなんないの。」
「何言ってんのお前。」
「子どもじゃないんだから自分でなんでも出来るでしょ。あたしは健次の母親じゃないんだけど。朝ごはん作っても健次食べないじゃん。」
今言うべきではないと思ったけど、昨日の朝食のことを根に持ち、健次を睨みつけながら言葉を発し続けた。
「・・・・・・・・・。」
「寝すぎた理由をあたしに押し付けないで・・」
その言葉を口にした時右頬に痛みを感じた。
あーそうだ。健次は左利きだったんだ…って
どうでもいい事を考えてしまった。
「お前・・・・調子乗んなよ?何開き直ってんだよ。」
右頬を手で抑えながら健次を見ると、
人を見下すような目をしてあたしを睨んでいた。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・.・・・・。」
健次は会社用に使っているバックを持って部屋を出ていった。
そのまま玄関のドアを乱暴に閉め家を出ていった。
「・・・・・・・・・・・。」
あたしは右頬のジンジンとする痛みを抑えるように
手のひらで頬を覆った。
あぁ・・・・・今日も見送れなかった・・・。