(仮)愛人契約はじめました
 ああ、あの人も付き合いで来てて、コンパ興味ないんだろうな、と唯由は勝手に思う。

 男は一番端に座り、カウンター奥に並ぶ酒瓶をぼんやり眺めている。

 なんとなく参加しているコンパのときなど、自分もそんな風にしていることが多いので、たぶん、この人も同じ感じなんだろうなと思っていた。

 ただ彼には、自分のような凡人とは違うところがあった。

 (あつら)えた物らしき身体に馴染んだスーツに、手入れの行き届いた靴。

 濃い整った顔でグラスを傾けるさまは、絵になりすぎていて。

 なんか王様みたいな人だな、と唯由は思った。

 いや、こんな居酒屋に王様がいるわけもないのだが……。

 唯由がそんなことを考えている間も隣の人は話していた。

「それで、その動物病院の息子が俺の同級生なんだけど」

「あっ、それ、森村裕輝(もりむら ひろき)だろっ」
と誰かが言った。
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