(仮)愛人契約はじめました
「わかったっ。
 この人じゃないですか?」

 唯由は藤宮龍樹(ふじみや たつき)という名前を指差していた。

「あの日、言ってたじゃないですか。
 朝食の席で、森村さんが『藤宮がさ……』って。

 違うかもしれませんが」

 そうか、なるほどっ、と蓮太郎が手を打った。

「きっと俺の頭の何処かに、藤宮って自転車の奴の名前が残ってたんだな。

 それで、藤宮、森村という名前が並んで聞こえてきたあのとき、こいつがあの森村では、とピンと来て振り返ったんだ。

 連絡先交換したとき、チラと視界に入ったのを脳の何処かで記憶していたに違いない」

 俺、すごくないかっ? と言う蓮太郎にみんな、口々に言った。

「すごくない」
「……すごくないと思います」

 連絡先交換したのに名前覚えてない時点で、たぶん、すごくないですね……。





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