(仮)愛人契約はじめました
「蓮形寺さん、なにか頼む?」

 向かいのソファから、さっき横に座っていた人が訊いてきてくれる。

「あ、なにか頼まれますか?」
と唯由は彼にメニューを向けた。

 大丈夫だよ、こっちにもあるから、と彼は断ったあとで、
「そうだね。
 ちょっと軽く頼もうか。

 皆さん、なににします?」
と音頭を取って訊きはじめてくれた。

 自分もなにかしなければ、と思った唯由は隣の無口な男に訊いてみた。

「あの、なにか頼まれますか?」

 すると男は暖色系の照明のせいか、鳶色(とびいろ)に見える瞳で、まっすぐ唯由を見つめてくる。

 思わず、どきりとしてしまったとき、男が言った。

「お前は蓮形寺(れんぎょうじ)というのか」
「はい」

「変わった名前だな。
 名字か?」
と男は確認してくる。

 まあ、名字ですよね。
 あんまり蓮形寺って名前の女の子、いないんじゃないですかね……?
と思いながら、唯由は、

蓮形寺唯由(れんぎょうじ いよ)と申します」
と頭を下げた。
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