辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
銀色の鍵は、確かにいつも中庭に出る際にクラーラが使っているものと同じに見えた。屋敷の中に灯された明りを浴び、それは鈍く光っていた。
「なんなら、シロツメクサが咲く草原にしても構わない」
「? シロツメクサ?? 庭園の嫌われものですわ」
「でも、俺達にはぴったりだろう?」
セシリオは表情を綻ばせると、サリーシャに顔を寄せる。チュッというリップ音と共に、今日も頬に柔らかいものが触れた。そして、包み込むような優しい抱擁。
「あんまりこうしていると離れがたくなるな。おやすみ。よい夢を」
全身を包む温もりが離れ、思わず追いそうになったところでサリーシャは踏みとどまった。追ってどうするのか。その温もりを求める資格が自分にはある? 答えは、否だ。
黙り込むサリーシャのおでこに、もう一度柔らかな感触が触れる。
ドアが閉じられてシンと静まり返った部屋がいつも以上に肌寒く感じ、サリーシャは言いようのない寂しさを感じた。ふと右手を開くと、そこには間違いなく先ほどセシリオから渡された中庭の鍵が鈍く輝きを放っていた。