辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
言わなくてはならない。いつまでも隠し通せるものではない。
サリーシャは自分の背にそっと手を回した。指先に感覚を研ぎ澄ませると、ボコボコした感触が指に触れる。間違いなく、そこには醜い傷跡がある。消すことが出来ない、醜い傷が。
──セシリオ様なら、これも受け止めて下さるかもしれない。
そんなことを思い、すぐに小さく首を振る。でも、受け止めて貰えなかったら? 拒絶されるのが怖い。あの温もりを失うことが怖くてならないほどに、自分は既にあの人に惹かれているのだ。
***
その日、アハマスの領主館の散策をしていたサリーシャは、馬の嘶く声を聞いて足を止めた。
アハマスの領主館はとてつもない広大な敷地を誇る。敷地内には中心となる屋敷の他に、使用人達の住む家や兵士達の宿舎、訓練場、倉庫など、ありとあらゆる施設があるのだ。サリーシャが知る限り、馬車置き場は屋敷の正面側にある。しかし、それとは別に、どこかに厩舎があるのかもしれない。