辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
しばらくその馬を眺めていたサリーシャは、不意に呼びかけられて驚いて振り返った。そこには、軍服姿のセシリオが少し驚いたような顔をして立っていた。片手にはバケツを握っている。
「閣下? あの、散歩をしていたら、厩舎を見つけまして。もしかして、入ってはいけませんでしたか?」
「いや、自由に出入りしてくれて構わない」
セシリオはゆっくりと歩いて近づいてくると、サリーシャの前で立ち止まってバケツを床に置いた。その拍子に少しだけ水が零れ、土を固めて造った床にこげ茶色のシミをつくる。
「何か気になる馬はいた?」
「この子が綺麗だな、と思いまして。閣下はなぜここに?」
サリーシャが聞き返すと、セシリオは目を細めてそのこげ茶色の軍馬を見つめた。
「こいつは俺の馬だ。今十二歳になる。良い馬だろう? デオという名だ」
サリーシャはその馬を見つめた。こちらの話を聞いているかのように、デオはつぶらな瞳でじっとこちらを見つめている。