辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
それは、酷く自分勝手な欲望だ。自分は隠し事をしながら、相手には愛情を求める。けれど、どうしても失いたくなくて、サリーシャは背中に回した腕の力を込めた。
「今日は、随分と甘えん坊だな」
「……ダメでしょうか?」
「いや、構わない」
答える声は、少しだけ笑いを含んでいた。背中に回るセシリオの手がポンポンとあやすようにサリーシャの背を規則正しく叩く。
今はその幸福な感覚に浸りたくて、サリーシャはそっと目を閉じると広い胸に頬を寄せた。
◇ ◇ ◇
セシリオが執務室に戻ると、椅子に座るモーリスは待ちくたびれたような様子で両手を頭の後ろで組んだまま、外を眺めていた。窓の外では鳶が一羽、空高く飛んでいるのがガラス越しに見える。ドアが開いたことに気付いたはずだが、こちらには頭の後ろを向けたままだ。