辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
セシリオはばつが悪そうに少し口を尖らせたが、すぐに気を取り直したようにその封筒を丸ごとモーリスに手渡した。
「読んでみろ。これを読む限り、今回のフィリップ王子の襲撃事件に関してはダカール国はシロだな。しかし、裏で手を引いた連中を炙り出すまでは、我々はダカール国を疑っているように見せかけた方が色々とカモフラージュ出来て都合がいい」
「そうだな。恐らく、ホシの狙いはタイタリアとダカール国が険悪になることだ。変に警戒されると尻尾が掴みにくくなる」
受け取った封筒から報告書を取り出して一通り目を通したモーリスは、それをセシリオに返すと、真剣な表情で頷き返した。
「ところで、セシリオ。お前、マリアンネ嬢はどうするつもりだ?」
「どうするも何も、何年も前に話は終わっている」
「俺もそう思っていたんだが、あの手紙を見る限りでは向こうはそうは思ってなさそうだぞ?」
「なにを今さら。こちらの説得を振り切って実家に帰ったのは向こうだ。それに、この前の手紙の返事にもサリーシャがいると書いておいた。放っておけばいい」
「でも、こっちに来るって書いてある」
「断っておく。片道十日以上かかるんだぞ? 来ないだろ」
セシリオは心底嫌そうに顔をしかめると、その話を打ち切った。