辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
セシリオには王都でサリーシャが見てきたモテる貴族令息のようなスマートさはない。確かに不器用な男だと思うが、とても優しい。いつも最大限にサリーシャとの時間を確保しようと努力してくれていることが感じられるし、サリーシャのことを大切に思ってくれており、事実、とても大切にしてくれていることもよくわかった。
──セシリオ様なら、この背中の傷もきっと受け入れて下さるわ。
最近では、そんなふうに前向きに考えることも出来るようになった。サリーシャが改造を任された中庭はもうすぐ整備を終える。そうしたら、勇気を持って自らの偽りに終止符を打とう。あの中庭に行く度に、サリーシャはその決意を益々固めていた。
最後の一刺しを終えると、糸の始末をしようとハサミに手を伸ばす。パチンと小さな金属音が響き、ハンカチから糸が離れた。
「出来たわ。ふふっ、なかなか上手に出来たのではないかしら?」
サリーシャはハンカチを広げると、窓際で太陽にかざすように広げた。真っ白な生地に野を駆ける凛々しい馬と、セシリオの頭文字である『C』の文字。
今夜の夕食の際にでも、これを渡そう。サリーシャはそう決めると、口元を綻ばせてハンカチを机の上に置いた。