辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
***
その日の夕刻、アハマス辺境伯の屋敷の前に、一台の豪華な馬車が乗り付けた。
六頭立ての黒塗りの馬車には金で縁取られた精巧な飾りが施されており、夕日を浴びてキラリと光っている。その絢爛な見た目から、高位貴族の所有する馬車であることは明らかだった。屋敷を守る衛兵達も、辺境の地には珍しいこの来客に、皆興味深げに注目した。
馬車が正面エントランス前に停まり、扉がカチャリと馭者によって開けられる。開いた扉の隙間から床に伸びた足を飾る靴にはクリスタルが縫い付けられおり、これも夕日を浴びてキラキラと耀いていた。その豪華な靴の踵が石の床に当たり、あたりにカツンと軽快な音が響く。
中から出てきた若いご令嬢──ブラウナー侯爵家のマリアンネは、目の前のアハマス領主館を見上げて目を細めると、独り言ちた。
「ここはちっとも変わらないわね」
肩にかかった髪を片手で払いのけると、美しく巻かれた栗色の縦カールはふわりと揺れた。
馬車の到着から間もなく──それは時間にして一分もなかった──屋敷からは執事のドリスが大慌てで出てきた。来客の姿を確認すると、驚いたように目をみはり、すぐに頭を垂れる。
その日の夕刻、アハマス辺境伯の屋敷の前に、一台の豪華な馬車が乗り付けた。
六頭立ての黒塗りの馬車には金で縁取られた精巧な飾りが施されており、夕日を浴びてキラリと光っている。その絢爛な見た目から、高位貴族の所有する馬車であることは明らかだった。屋敷を守る衛兵達も、辺境の地には珍しいこの来客に、皆興味深げに注目した。
馬車が正面エントランス前に停まり、扉がカチャリと馭者によって開けられる。開いた扉の隙間から床に伸びた足を飾る靴にはクリスタルが縫い付けられおり、これも夕日を浴びてキラキラと耀いていた。その豪華な靴の踵が石の床に当たり、あたりにカツンと軽快な音が響く。
中から出てきた若いご令嬢──ブラウナー侯爵家のマリアンネは、目の前のアハマス領主館を見上げて目を細めると、独り言ちた。
「ここはちっとも変わらないわね」
肩にかかった髪を片手で払いのけると、美しく巻かれた栗色の縦カールはふわりと揺れた。
馬車の到着から間もなく──それは時間にして一分もなかった──屋敷からは執事のドリスが大慌てで出てきた。来客の姿を確認すると、驚いたように目をみはり、すぐに頭を垂れる。