辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 大男二人で厳しい表情で向き合っていると、鈴を転がすような可愛らしい呼び声がした。声がした屋敷の方へ目を向ければ、サリーシャが息を切らせてこちらに駆け寄ってくるところだった。急いで来たのか、少し頬が紅潮して真っ白な肌をピンク色に染めている。

「サリーシャ? どうした??」

 セシリオは突然の婚約者の登場に首をかしげた。その途端、サリーシャがピタリと足を止め、しまったというような顔をする。みるみるうちにピンク色の肌は赤色に染まった。

「あのっ…、その……、特に用事はなかったのです。ただ、窓から閣下の姿が見えたので……」

 言いにくそうに小さく弁解するサリーシャを見て、セシリオは目を丸くした。どうやらサリーシャは、たまたま窓から外を眺めている時に自分の姿を見つけて、特に用事もないのに飛び出して来たらしい。思いがけない愛らしい姿に思わず顔がだらしなく緩みそうになり、慌てて表情筋にぐっと力を入れた。

「そうか。ちょうどよかった。こちらが前にも話していた、モーリスだ。俺の右腕だ」

 努めて平静に横にいたモーリスを紹介すると、モーリスに視線を移したサリーシャの表情がパッと明るくなる。
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