辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 長い付き合いのサリーシャから見ても、彼女と見つめ合って微笑むフィリップ殿下はとても幸せそうにみえた。優しいフィリップ殿下は皆の王子様で、サリーシャの大切な友人。

 さあ、友の幸福を祝おう! 
 そう思うのに、心からお祝い出来ない自分がいた。

 ──わたくしは明日から、どうすればいいのかしら?

 この期に及んで、そんなことが脳裏をよぎる。もしかしたら、フィリップ殿下は自分のこんなふうに醜い部分に気付いていたのかもしれない。そんなふうに思った。

 サリーシャはフィリップ殿下を騙そうとした。自分可愛さに、養父であるマオーニ伯爵に言われるがままに、彼を虜にしようと画策した。

 景色は歌劇のように移り変わる。
 主役を演じるのはフィリップ殿下とエレナだ。
 サリーシャはただそれを眺めるだけの観客にしかなれなかった。

 本当は、こんな結末になることにずっと前から気付いていた。けれど、サリーシャはそれに気付かないふりをして、マオーニ伯爵にいい顔をし続けた。そうするしかなかったのだ。

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