辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 こんな日はお散歩にも行けない。サリーシャはもう一枚残ったハンカチの刺繍をすすめるか、本を読むかで迷い、結局本を読むことにした。一日は長いので、刺繍は午後からでもいいだろう。こういうとき、アハマス領主館の大きな図書室は非常に有難い存在だ。

「ノーラ。わたくしは図書室に行こうと思うのだけど、一緒に行く?」

 サリーシャはベッドメイキングをしていたノーラに声をかけた。ノーラは緩んだ布団のカバーをピシッと伸ばしてセットしながら、首を横に振って見せた。

「わたくしはもう少しやることがございますので、どうぞお気にせずに行かれて下さい。早く終わればそちらに向かいます」
「そう? わかったわ」

 やるべき仕事を中断させてまで図書室につきあわせるのも心苦しい。サリーシャは部屋に作業するノーラを一人残し、図書室へと向かった。

 どれくらい書架に並ぶ本を眺めていただろうか。図書室にはやはり、最近の本も何冊か置かれていた。多いのは領地経営に関する本や軍の指揮に関する本で、それらはきっとセシリオが読むものだろう。ただ、それとは別に女性向けの恋愛小説がちらほらと混じっていた。
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