辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「これにしようかしら」

 サリーシャは一冊の本を本棚から抜き取った。
 『窓際の恋人』と書かれたその小説は、読んだことはないが、とても人気があるお話なので話題として聞いたことがある。針子をしている町娘が、毎日決まった時刻に通りかかる配達員の青年を作業場の窓から見かけるうちに恋をするお話だ。表紙には窓から外を覗く若い娘の姿が描かれており、題名の下に記載された発刊年度は今から八年前だった。

 その本を持って部屋に戻ろうと出口に近づいたサリーシャは、そのドアが先にカチャリと開いたので足を止めた。そして、そこから顔を覗かせた人物を認めて、少しだけ目をみはった。

「マリアンネ様?」

 そこには、朝食のときと同じ水色のドレスを着たマリアンネが立っていた。昨日の晩餐のときほどではないが、レースがたっぷりと付いた豪華なドレスだ。

「あら。サリーシャ様」

 マリアンネの方も少し驚いたように目をみはったので、ただ単に暇つぶしに本を選びに来ただけのようだ。マリアンネはサリーシャより格上の侯爵令嬢だ。サリーシャはすぐに頭を少し下げてお辞儀をした。
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