辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
サリーシャは、無言のままマリアンネを見つめた。やはり目の前の人が何を言いたいのか、さっぱりと分からなかった。マリアンネは喋りながら持っていた扇を弄んでいたが、ふぅっと息を吐くとサリーシャを見つめてニコリと笑った。
「わたくし、昔、セシリオ様と婚約してましたのよ。多分、セシリオ様は言わないでしょうから、サリーシャ様は知らなかったかもしれませんけど」
「え?」
サリーシャは、元々大きな目を、さらに大きく見開いた。
目の前のこの女性が言ったことが、よく理解できなかった。マリアンネは笑顔のまま、持っていた扇をパシンと開くとゆっくりとそれを口元に近づけた。
「でも、色々あって解消しましたので今は違います。そして、サリーシャ様はついこの間までフィリップ殿下の有力な婚約者候補、その後はスカチーニ伯爵との婚約が内定したと社交界で話題でしたのに、いつの間にかセシリオ様の婚約者になっていらっしゃる」
「……なにを仰りたいのですか?」
「あら、嫌だ。そんな怖いお顔しないで下さいませ」
表情を強張らせたサリーシャを見て、マリアンネはふふっと笑った。