辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
 ***


 屋敷に戻ってきてからも、サリーシャの気分は晴れないままだった。

 本当だったら今日はセシリオと二人で馬に相乗りして出かけるはずだった。それなのに、相乗りはもちろんのこと、碌に話すことすらできなかった。回った行き先だって、全てマリアンネが行きたがった場所だ。
 マリアンネは外出中、ずっとセシリオの腕に手を回したまま離そうとしなかった。侯爵令嬢であるマリアンネをサリーシャが押しのけることは出来ないし、セシリオも無下にすることは出来ない。仕方がないとはわかっていても、胸にもやもやしたものが広がっていくのを感じた。

 部屋にいるのが何となく嫌で、とぼとぼとサリーシャが向かった先は中庭だった。
 八割がたの造園作業が完成した中庭は、見事にかつての美しさを取り戻していた。苔がむしていた階段は真っ白な石に置き換えられ、小径も小さなブロックを組み合わせたものに作り替えられた。元々あった木々はそのままに、低い位置には小さな花が追加で植えられ、小径の両脇を色とりどりに彩っている。その小径の先には木製のガゼボが設置され、その中には小さなテーブルと椅子のセットも置かれた。
 そして、サリーシャが一番こだわった場所は庭園の一番端にあった。芝生の広場の一画に、一見すると四角く植栽が施されている。しかし、その植栽はL字を二つ組み合わせたような形をしており、真ん中は外から見えないようになっているのだ。
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