辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 この中に入ったサリーシャは膝を抱えて座り込んだ。足元の芝生を見つめながら脳裏に甦るのは、昨日、マリアンネから言われた言葉だ。

『婚約など、何度だって覆るのです。より、条件のいい方にね』

 それが意味するのは即ち、サリーシャとセシリオの婚約など簡単になかったことに出来るということだ。そして、武器などの兵器を扱うブラウナー侯爵家が国防を担うアハマスにとって、とても重要な存在であることはサリーシャにもよく分かった。

 サリーシャには、マリアンネとセシリオの婚約がなぜ解消になったのかはわからない。けれど、それを聞いて色々と納得したことも多かった。
 図書室で最近の女性向けの本があったのは、間違いなくマリアンネのためだ。幼いときから何度も会っていたのも、婚約者だったからだろう。それに、セシリオと相乗りして出掛けたというのも……

 セシリオは以前、婚約者に優しくするのは当然だと言った。彼はマリアンネにも自分に接するかのように優しく接したのだろうか。柔らかく微笑み、抱きしめたのだろうか。それを思うと、嫉妬で気が狂いそうだった。

「サリーシャ」
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