辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
一時間はそうしていただろうか。サリーシャは自分を呼び掛ける低い声に体をびくりと震わせた。もう日が沈みかけ、中庭を囲む壁の一面がオレンジ色に染まっている。
「サリーシャ? こんなところで何をしてる? 皆が、外出から戻ったあとにきみの姿が見えないと心配している。そろそろ冷えるから、戻ろう」
「──戻りたくありません」
「サリーシャ?」
サリーシャを探しに来たであろうセシリオは、少し刺のある言い方に困惑したように立ち止まった。そして、サリーシャを無言で見下ろすと、スッとサリーシャの前に膝をついた。
「今日は悪かった。やはり、マリアンネの件は俺がきっぱりと断るべきだった」
「いいえ、わたくしはなにも気にしてませんわ」
口から出るのは心にもない言葉だ。なんと可愛いげのない女なのだろうと、自分でも呆れてしまう。それを聞いたセシリオは、サリーシャを見つめたまま少しだけ眉をひそめた。
「俺が気にしている。きみには悪いことをした。……それに、俺はきみと二人で出掛けたかった」