辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 膝を抱える手を取られ、サリーシャは足元を見つめていた視線をゆっくりとあげた。ヘーゼル色の瞳はまっすぐにサリーシャを見つめている。

「俺はきみと二人で出掛けたかったんだ」

 サリーシャに言い聞かせるように、セシリオがもう一度そう言った。

  その言葉を聞いたとき、抑えていた気持ちが堰を切ったように溢れ出てきた。

 本当はサリーシャだって二人で出掛けたかった。一緒に馬に乗りたかった。休みが殆ど取れないセシリオと半日過ごせるのを、どんなに楽しみにしていたか。感情が長雨のあとの河川の濁流のごとく押し寄せ、大きなうねりとなって一気にサリーシャを覆い尽くした。

「わたくしだって閣下と二人で出掛けたかったです! 凄く楽しみにしてたのに! 婚約者はわたくしなのに、まるでわたくしが邪魔者みたいでしたわ! マリアンネ様ったらずっと閣下にくっついていらっしゃるし! 馬にも乗れないし!」

 ぼろぼろと零れ落ちる涙と共に、一度口から飛び出した不満は次から次へと溢れ出し、留まることを知らない。涙ながらに怒り出したサリーシャを見つめながら、セシリオは驚いたように目を丸くしていた。そして、一通りの不満をぶちまけたサリーシャがはぁはぁと息を切らせると、優しく抱き寄せてポンポンと背中を叩いた。
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