辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
セシリオはサリーシャの手を引いて少し早歩きするように促した。アハマス領主館はとても広いので、厩舎もそれなりに離れているのだ。
「何に間に合わなくなるのです?」
「行けばわかる」
セシリオは振り向いてサリーシャの顔を見つめると、意味ありげに口の端を持ち上げた。
そうしてデオに乗って連れられてきた小高い丘に到着したとき、サリーシャはそこから見える景色に息を飲んだ。遥か遠くまで見渡せる景色は、まるで円盤のようにぐるりと丸く地平線が見えた。黒い陰のように見える地上に対し、真っ赤に染め上げられた空。その空は上にいくにつれて青さを増し、何重にも絵の具をかさねたかのような複雑な色彩を放っていた。
近くには町が広がっているが、その向こうには森林の緑が広がっている。さらに先には、サリーシャがいた王都があるのだろう。
「……すごい。綺麗だわ」
「そうだろう? 晴れた日の、この時間帯にしか見られない。間に合ってよかった」
セシリオは夕焼けに染まる景色を見つめながら、目を細めた。そして、デオから降りると、サリーシャのことも地面にそっと降ろした。大きな石がゴロゴロとした足元の悪い丘に立ち、サリーシャはおずおずとセシリオを見上げた。