辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「マリアンネ様とも、デオに乗ってここへ来たのですか?」
「マリアンネと? いや、来てないが?」
「でも、以前はよく相乗りして出掛けたと仰ってました」
沈んだ声でそう言ったサリーシャを見て、セシリオは驚いたように目をみはった。そして、耐えきれない様子で肩を揺らし始めた。
「マリアンネとよく相乗りしたのは、まだ彼女が十歳くらいの頃だ。デオがまだ俺のところに来る前だ」
「……そうなのですか?」
「ああ、そうだ」
「閣下はマリアンネ様と婚約していたって……」
「昔にな。マリアンネが生まれたときに、父親同士が決めた。だが、昔のことだ」
セシリオはゆっくりと大きな手を伸ばすと、サリーシャの頬を包み込んだ。ヘーゼル色の瞳でサリーシャのことを覗き込む。
「それで拗ねていたのか?」
優しく見つめられ、止まっていたはずの涙がまたぽろりと零れ落ちた。