辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
「『瑠璃色のバラ』とうたわれただけありお美しい婚約者ですな。しかし、アハマス卿、気を付けられた方がよい。美しいバラには棘がある」
「……どういう意味でしょう?」
スッと目を細めたセシリオに対し、ブラウナー侯爵はフンと鼻で笑うような仕草をし、片手を振った。
「ものの例えですよ。世間の一般論を申し上げたまでだ。さあ、疲れたから部屋に案内してもらえませんかな?」
「ご用意できております。どうぞこちらへ」
横に控えていたドリスが小さく頭を下げて声を掛け、部屋に案内するためにブラウナー侯爵を先導する。ステッキを片手に持ったブラウナー侯爵は太った巨体を揺らしながら、のそのそとその後に続いた。
「この狸が」
「え?」
小さな呟きに驚いたサリーシャが隣に立つセシリオを見上げると、セシリオはいつになく厳しい表情を浮かべたまま、じっとその後ろ姿を睨み据えていた。