辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
***

 それから二日ほど、サリーシャは領主館の敷地の中を散歩したり、刺繍の仕上げをしたりして過ごしていた。

 ブラウナー侯爵が到着してからというもの、セシリオは通常の仕事に加えて侯爵との商談のようなもので、日々とても忙しそうだ。食事のときもマリアンネやブラウナー侯爵が同席するので、ゆっくり話すことも出来ない。刺繍の剣を刺し終えたサリーシャは、壁の機械式時計を見た。時計は五時半を指していた。そろそろ夕食の時刻だと、サリーシャは刺繍道具を片付けるといそいそと準備を始めた。

「フリントロック式マスケット銃が五千丁と、その点火剤と、装填用弾薬。それに車輪付き放架を備えた大砲を六百台、砲丸を一万五千……」

 その日も皆で囲んだ食事の最中、セシリオの正面の上座を陣取ったブラウナー侯爵は、熱心に武器の売り込みをしていた。昨日は防具の売り込みをしていたが、今日は攻撃用の新兵器の紹介のようだ。

「フリントロック式マスケット銃は最近出始めたばかりだが、そんなに沢山を短期間に用意できるのか?」
「我がブラウナー侯爵家の流通力を甘く見て貰っては困りますな。有事に備え、二週間以内に用意できます」
「二週間? 大砲も? もうどこかに在庫があるのか?」
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